「ねぇ、これですか? 絵って」
「そうだよ」
 神父は笑う。過去の戒めである絵を、興味有りげに眺める少女を。
「二百年、前……」
「ちょっと想像もつかないかな?」
 うーん。あたしが今九つだからぁ、その倍の倍の倍の……
 指折り数え始めた少女に背を向け、神父は階段を降りる。



『 僕らへの戒め。 』
『 村人全員を殺した、僕らへの。 』
『 いつまで経っても死ねない。 』
『 でも僕は大丈夫。ユリがいる。僕らはずっと一緒だから。 』
『 ねぇ、ユリ。 』

 神父は傍らを見る。誰もいない。





 少女は食い入るように絵を見つめた。
 全体的に茶がかかり、明暗の激しい絵。塗るというよりも多くの線を引いて描かれたものであるようだ。小さな赤と、大きな黒。舞台の後ろには柵、ずっと奥には海も見える。
 小さな指が、赤い髪の者達を数え始める。
「一、二、……」
 戸惑いながらも指は動き、数え残しの鬼の数を一つずつ減らしていく。
「七」
 そして最後に指が止まった者に気が付く――振り返った。
 しかしもう、そこに彼の姿は無い。下の階から響くゆったりとした足音。もう一度絵を見る。
 ――赤い者達。四人の少年と、三人の少女。一番幼い子が、
「まさかね」
 誰にともなく言い聞かせ、自分も階段を降りていく。どこかの部屋に入ってしまった神父に挨拶をする。
「さようなら。またお話聞かせて下さいねーっ」
 ――あの神父に似ていた気がしたのだが。


 もう一度夕陽に染まる教会を振り返って、すぐに向き直り、家へと駆けていく。
 今日は月が輝く日。髪を染める日。
 だってね、誰にも言わないけど、あたしの髪、根元からどんどん赤くなってっちゃうんだもん。





          ア ト ガ タ リ